2012年12月4日(火)、東京国際フォーラムにて環境まちづくりフォーラム実行委員会による「環境まちづくりフォーラム2012 in 東京」が開催された。フォーラムには400名以上の関係各者が集まり、エリアマネジメントという考え方によるまちづくりが、いかに注目を集めているかを物語るものとなった。
実行委員長である小林重敬氏(東京都市大学 都市生活学部教授)のキーノートスピーチよりキックオフされたフォーラムは、東京都心部である大丸有、銀座、日本橋のエリアマネジメント活動の報告を始め、札幌、東京、名古屋、大阪の各都市におけるエリアマネジメント組織の活動内容が具体的に報告された。各組織の報告の中には、まちづくり計画の方向性が明確になっている事柄がある一方、今後の活動における課題も浮き彫りとなった。その浮き彫りとなった課題を、官民連携することで解決を図るべく「提言」として発表されるに至った。



 
 

小林 重敬 (実行委員長 / 東京都市大学 都市生活学部 教授)
 
エリアマネジメントは、さらなるステージへ。

大丸有エリアマネジメント協会は発足して10年が経った。エリアマネジメント活動が始まって10年、多くの地域に根ざした組織が立ち上がり活動をしている。このような時期を捉えて、このフォーラムでは、各エリアマネジメント組織のネットワーク化を図ること、並びに、それぞれの活動に際して浮かび上がってきた課題について意見交換をし、今後のエリアマネジメント活動を本格的に進める為に必要な『提言』を発表することを目的としている。

これまでのエリアマネジメントは、地域の課題を解決し、地域の持つ資源を活用し、官民連携で街の活性化を行なうことが中心だった。しかし、これからのエリアマネジメントは従来の活動に加え、近年の社会情勢の中で生まれた新しい社会ニーズへの対応が求められている。いわゆる、地球環境問題と防災・減災問題への対応という、より公共性の高い活動が社会ニーズとしてあると認識している。公共性の高いエリアマネジメント活動を行うには、組織を支える仕組みや財源に関わる制度が不十分であること等、多くの課題があり、これらについて議論していきたい。

  東京都心部におけるまちづくりは、それぞれの地域によって様々な歩みを辿ってきた。地域ごとの文化や環境を生かし、地権者や立地企業との連携によって様々なガイドラインを定め、まちづくりのビジョンを共有している。そして、エリアマネジメント組織は、官民一体となって東京都心部のまちづくりを推進することを目指している。

コーディネーター
中井 検裕 (東京工業大学大学院
社会理工学研究科 教授)
 
 
 パネリスト
 竹沢 えり子(銀座まちづくり会議 企画・運営担当)
先進性を規制することのないデザインルールを制定。

全銀座会はきめ細かいネットワークを持ち、顔の見える町会や通り会が維持されている。任意団体ではあるが独自の定款を持ち、総会を行う組織として地域の意志決定機関となった。銀座デザイン協議会は中央区の要綱に基づき、全銀座会直属機関として新築建築物ならびに工作物の事前協議を行っている。事前協議にあたっては、初めから数値や言葉によって銀座の先進性を規制するルールを策定するのではなく、紳士協定である「銀座フィルター」に基づき、銀座らしいかどうかだけを基準とすることにした。その後事例の積み重ねによって、「銀座デザインルール」の制定に至った。この制度によって、銀座らしいデザインが実現するようになったばかりでなく、都市デザインの方向性が明確になったこと、エリア内のほぼすべての開発の情報が集約されるようになった。

 パネリスト
 新原 昇平(三井不動産株式会社 日本橋街づくり推進部長)
よみがえれ日本橋。
天下の名橋であり、わが国道路の原点である日本橋に、昔の面影はない。高架高速道路の足元に喘ぎ、美観、風格は損なわれた。日本橋のまちづくり組織の一つ『名橋「日本橋」保存会』は日本橋を蘇らせていくことが活動の柱。老朽化した首都高速都心環状線は、高架橋を撤去し地下化を目指し、都市直下型地震への対応という観点からも国家プロジェクトとして再生を関係者とともに検討していく。さらに、もう一つの組織『日本橋地域ルネッサンス100年計画委員会』は、民間の活力を生かし、世界都市・東京を日本橋から発信していく。そして、日本橋は古き良い文化や伝統が残る街。古いものを残しながら新たな取り組みを通じ街の価値を創造していく。多様性と一体感、伝統と先進性という日本橋の魅力、すなわち「粋」という生き方や空気感を継承していきたい。
 パネリスト
 金城 敦彦(大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会 事務局長)
公民の協力・協調(PPP)と、地域のまちづくり組織の連携。
東京駅を中心に広がる大丸有地区は、江戸期より時代に応じて変遷。明治期以降一貫して日本経済の中心的役割を果たす。伝統風格を大切にしつつ、時代をリードする街として進化を続ける。都・区・JR東日本と当協議会で運営する「大丸有地区まちづくりガイドライン」に基づく取組みの好例が、丸の内仲通りの再構築や行幸通りの再整備、東京駅丸の内駅舎の復原。今後の駅前広場整備を含め日本を代表する景観形成にPPPで取組んでいる。また、公的空間の活用や環境分野を担う組織が連携して地域を活性化。連鎖型都市再生や国際競争力強化にも取組み、世界に誇る美しい街で諸外国からの人々に活動していただく。引続き、公共空間の積極的利活用や街の主体的な維持管理、BID等の手法を含めた総合的なまちづくりにPPPで取組む。 周辺地域、全国のまちづくり組織とも連携したい。
 Session1 総括 中井 検裕
 
それぞれの地域における独自の個性を磨きあげていく、そのような地域の集まりにより、東京都心の多様な輝きが引き出され、世界におけるまちづくりの競争力にもつながっていく。これらのエリアマネジメントは長年の試行錯誤の積み重ねによって確立されてきた。すなわち、エリアマネジメントは固定されたものではなく進化しているし、育てている。そして次の段階では、エリアマネジメント自身をマネジメントしていくという段階に進むのではないかと思う。丸の内、銀座、日本橋はかつて一時期、衰退したと言われた時期があったが、エリアマネジメント活動を通じて復活したという事にも注目していただきたい。

 

札幌、大丸有、名古屋、梅田と各都市圏におけるエリアマネジメントを比較とともに考察していく。主に、まちづくりにおいて重要な財源の確保。公共空間を多岐に活用していくことでエリアマネジメント活動の財源を確保し、活力ある都市へとつなげていく。具体的には公共空間における広告事業や歩行者天国等の公共空間活用事業、各種イベント企画事業など様々な活動を通じて財源を確保し、都市のPRへもつなげていく。街の規模、形状、文化など多岐に渡る要素を踏まえ、各都市ごとのエリアマネジメントがどのように行われているのか?そして、そのエリアマネジメント活動が都市に与える活力、さらには全国へと波及する活力の可能性について探っていく。


コーディネーター
後藤 太一 (合同会社福岡アーバンラボラトリー 代表社員)
 
 
 パネリスト
 服部 彰治(札幌大通まちづくり株式会社 取締役統括部長)
いつまでも市民に愛される大通のまちづくり。

札幌の6つの商店街と共にまちづくりを推進しているが、決して6つの商店街に負担を掛けないまちづくりのあり方を模索した結果として株式会社という法人形態で設立された。株式会社にすることで、独立採算で事業を行うことはもとより、各プロジェクトにおける責任を明確化し、意思決定の迅速化や経費の効率化を図ることができる。そして、まちづくりの専従者を作ることで長期的な展望に経ちノウハウを高められるメリットがある。都市再生整備推進法人に全国初で認定され、今までなかなか使用できなかった公共空間を活用し様々な観点から事業を増やしている。広告事業をはじめ、その様々な事業を通じて得られた収益をまちづくり事業に投資していく。

 パネリスト
 中村 修和(大丸有エリアマネジメント協会 事務局長)
地域と人、人と人を結びたい。

大丸有地区では、複数のエリアマネジメント組織が連携しながらまちづくりを行っているが、今年で10周年を迎えたリガーレは、イベントなどソフト面におけるまちづくり活動を担っている。組織形態としては、法人格を持ちつつも個人の参加や行政の支援が容易になるよう、NPO法人とした。具体的な活動としては、シャトルバスの運行支援、公共空間を利用したイベント主催、カルチャーセミナー、軟式野球大会、ツアーガイド、ご当地検定など、多岐にわたる。最近では、景観形成と財源確保を目的に、大丸有地区の賑わいの軸である仲通りにおいて屋外広告物の掲出事業に取り組んでいる。大丸有地区の大半は屋外広告物が掲出できないエリアであるが、東京都が設けたモデル事業という規制緩和の仕組みを利用し、自主ルールと自主審査会を整備・運用することで掲出が可能となっている。但し、せっかく得られた財源には法人税等が課税される。行政には、エリアマネジメント組織に対する減税・免税等の措置を是非ともご検討頂きたい。

 パネリスト
 高﨑 裕樹(名古屋駅地区街づくり協議会 都市再生委員長)
リニアの開業に向けて。
名古屋は道路が広く、最大の地権者は名古屋市。名古屋駅前のエリアマネジメントの重要なポイントは、道路空間の利用を車から人へと移行させること-名古屋市をオブザーバーに迎え、名古屋駅地区街づくり協議会を立ち上げ、様々な活動を展開している。具体的には、清掃&違法駐輪対策、おもてなし花壇の設置、セミナー等の開催、打ち水、街歩きイベント、エリアマネジメント広告の社会実験等を行っている。防災・減災への取り組みとしては、名古屋市とパートナーシップ協定を締結。また、2027年リニア開業に向けて、ターミナルシティー形成戦略を中心とするガイドラインを策定した。現在、このガイドラインに沿い、名駅通りなど道路空間の再配分を具体化するため、熱い議論を重ねている。人々を積極的に駅から迎え入れ、魅力と活力を創出するまちづくりを推進していく。
 パネリスト
 松村 弘三(梅田地区エリアマネジメント実践連絡会)
エリア全体のポテンシャル拡大、深化が重要。
JR西日本、阪急電鉄、阪神電鉄、グランフロント大阪の4社が集まり、梅田地区エリアマネジメント実践連絡会を設立。今後の日本全体の消費人口の減少、地域経済活動の停滞・縮小時代を迎える中で、梅田地区が国内外から来街者を誘致し持続的な発展を実現することを目的としている。実践連絡会の各社は、並列の協力関係にあり、トップを決めずに事務局は毎年持回りにして、各社が歩調を揃えることでエリアマネジメントを推進し、効果を最大限に求めていく。代表的なアクションワーキングとしては、冬に実施される梅田スノーマンフェスティバルや夏に実施される梅田ゆかた祭りがある。これら梅田地区全体でのイベントにより、参加企業も年々増え来街者誘致に大きな効果をあらわしている。さらに大阪ステーションシティ、梅田阪急百貨店、うめきた先行開発区域プロジェクトと、大型プロジェクトが次々と開業し、梅田は今、大きく変わろうとしている。
 Session2 総括 後藤 太一
 
各都市における経済環境、課題や今後の活動計画は異なるが、財源の確保や都市防災は共通の課題となっている。変動性の高い財源確保から安定性の高い財源確保へのシフトを図っていくことなど、新たな財源確保方法を各都市で情報を共有しながら開発していくことが重要。小林委員長からお話しのあった、より公共性の高いテーマへの取り組みということについては、その意識はあるものの人や財源の点から本格的に取り組むところまでは来ていない。ただ、大丸有地区については複数のエリアマネジメント組織が役割分担をする中で、ある程度取り組めている部分がある。この違いに横串を刺し相互学習することで、他地区のエリアマネジメント組織も進化していけるのではないかと思う。

 

各都市ごとに多様化したエリアマネジメント組織がある。これらの多様性が良しとされる部分もあれば、包括的にまとまった組織として対応していかなくてはならない部分も明らかになってきたようである。それは、税制であり財源の確保であるのだと思う。本日、各エリアマネジメント組織が発表してきた活動内容の中には、計上されていない経費が隠されている。運営を担当するスタッフの人件費や活動拠点の事務所費など、まだまだ財源の確保が必要である。そこで、これまでまちづくりサロンに参加してきたエリアマネジメント組織が議論を重ね、積み上げてきた提言を発表する。

 

 
パネリスト
金城 敦彦(前掲)

パネリスト
長谷川 隆三
(エックス都市研究所
サスティナブルデザイングループ

社会システムチームマネージャー)

パネリスト
松村 弘三(前掲)
パネリスト
鈴村 晴美
(名古屋駅地区 街づくり協議会
事務局長)

パネリスト
井上 成
(大丸有環境共生型まちづくり推進協会 専務理事)

 パネリスト
 山口 正紀(千代田区 まちづくり推進部長)
これまでエリア内を対象とした「内向きなエリアマネジメント活動」から、新しい社会動向を見据えた「外向きのエリアマネジメント活動」への展開へと打ち出したことは大変興味深い。とりわけ、環境・エネルギー、防災・減災といったテーマをエリアマネジメント活動の重要な取り組みとして位置づけたことは大変意義がある。大丸有エリアは平時においても日本経済を牽引するエリアであると同時に、災害が起きた時には、時間を置かず復活、復旧、復興するというエリアであり、さらにはこのエリアが持っている情報発信能力を十分に発揮していただく必要がある。エリアマネジメントの取り組みは、まちづくりの展開において、これまで以上に重要になってくる。したがって、そのエリアマネジメント組織が活動しやすい環境をつくることが必然である。各組織の自主自立をベースにした持続的な組織運営における人材と財源の確保、それに伴う規制の緩和という大きなハードルに対し、国・都・区が連携し知恵出ししていきたい。
 パネリスト
 町田 修二(東京都 都市整備局 都市づくり政策部長)
環境、エネルギー、防災・減災に加えインフラの更新が必要。更新時期を迎える公共物、及び民間建築物などの円滑な更新が東京都には求められている。その一端として重要な役割を果たすのがエリアマネジメント組織であり、各地で定着させていく必要がある。これまで各地域のエリアマネジメント組織が推進してきた官民協調のまちづくりをさらに深化していく必要があるだろう。 手続きの簡素化という面では、東京都では広告物のモデル事業にも取り組んでおり、広告物の自主審査の仕組み等も、エリアマネジメント組織が主体となり、都内のあらゆる街に根付かせていけたら良いと考えている。都市再生の推進に当たっては、民間のエリアマネジメント活動と行政の連携が必要。引き続き連携・協力をお願いすると共に、行政としても可能な限り支援していきたい。
 特別ゲスト
 中薗 昭彦(名古屋市 住宅都市局 まちづくり企画部 都心まちづくり課長)
環境や防災といった大きな課題に取り組んでいくためには、まだまだ財源が不足していると考えている。よって、エリアマネジメント組織の今後の組織としての位置づけや財源の確保が大事な課題となってくる。また、名古屋駅周辺の一番の地権者は名古屋市であるため、公共空間を使ってのエリアマネジメントが「キー」になってくる。名古屋市では、平成22年に「道路利活用課」という組織を作っており、公共空間を使った財源確保に前向きに取り組んでいきたい。名古屋駅前でのエリアマネジメント広告社会実験も開始している。行政は縦割りだというご指摘もあったが、名古屋市に設置されている「都心まちづくり課」はテーマではなくエリアを対象としているので、今後とも地域に対し横断的に役割を果たしていきたい。
 特別ゲスト
 安藤 友昭(大阪市 計画調整局 うめきた整備担当部長)
大阪貨物駅跡の整備とその周辺の開発を担当している。来年の春には、うめきた地区先行開発エリアの街開きを予定している。国が構築した制度を利用し、都市再生整備計画を策定して特例道路占用区域として指定することで、うめきた再開発エリアの主な歩道では広告掲出やオープンカフェといった利用を行う。また、来年度は社会実験としてエリア巡回バスの取り組み等も行う。これらの成果をうめきた以外のエリアにも反映していきたい。大阪駅周辺地区の環境維持・災害時の安全確保のためには、エリアマネジメント活動を深めていくことが重要。提言を踏まえ、引き続きエリアマネジメントに全力で取り組んでいきたい。
 パネリスト
 清瀬 和彦(国土交通省 都市局 まちづくり推進課長)

都市再生特別措置法で、まちづくりを担う組織を地方自治体が「都市再生整備推進法人」に指定できる仕組みをつくっている。これは、地方自治体がまちづくりを担う組織に、法律上の位置づけを与える仕組みである。道路などの公的な空間を活用するという意味では、道路占用の特例や、公共団体と民間団体が連携しながら協定を結んで施設の整備、管理をするといった制度をつくっている。また、東日本大震災時に大量の帰宅困難者が出たことや混乱が起きたことに対しても、都市再生特別措置法を改正して、都市再生安全確保計画制度をつくった。これは都市機能の集積した場所において、エリアマネジメントの考え方を使いながら防災の取り組みをしていく際に、これを支援する制度である。このような制度を活用していただくとともに、各地域で皆様の意見を取り入れながら、さらに制度の発展改善や創設をしていかなくてはならないと思っている。

 Session3 総括 小林 重敬

全国各地でエリアマネジメント活動が展開を始め、それぞれが多くの課題を抱えている。しかし、これだけ全国的に展開しているということは、それだけニーズも高いということである。今日のフォーラムに参加していない多くのエリアマネジメント組織が全国で活動している。これらの組織ともネットワークを作り、日本におけるエリアマネジメント活動をより拡大していきたい。また、提言で示したエリアマネジメント活動を行っていく上で必要となる仕組み・制度等を行政と共に整備していきたい。そのためにはエリアマネジメント組織のネットワーク化と情報交換が重要であり、引き続き協力をお願いしたい。