2012年10月30日(火)、ハービスOSAKAのハービスHALLにて、環境まちづくりフォーラム実行委員会による「環境まちづくりフォーラム2012 in 大阪」が開催された。フォーラムには300名以上の関係各者が集まり、本フォーラムへの関心の高さが窺えた。
実行委員長である小林重敬氏(東京都市大学 都市生活学部教授)の開会挨拶に続いて行われた、青山公三氏(京都府立大学 公共政策学部 教授)による基調講演では「まちづくり活動と財源確保について」というテーマで、ニューヨークにおけるまちづくりのあり方や財源としてのBIDについて詳細な研究結果が報告された。
続くトークセッションでは、大阪の御堂筋と梅田地区、神戸の旧居留地、福岡の天神という4地域のエリアマネジメント組織から、それぞれの活動内容の報告があり、今後の活動における課題について議論がなされた。



 
 

青山 公三 (京都府立大学 公共政策学部教授)


 

行政とNPO・民間による、制度にもとづくパートナーシップで生まれる街の活力
ニューヨークの活力の根底は、行政、民間、NPO等が、絶妙なパートナーシップのもと、一緒に街をつくっているところにある。行政は制度をつくり、規制を緩和し、NPOは資金調達をし、民間企業は開発投資をする、そうした上手い仕組みが、まだ日本ではできていない。ニューヨークでは、行政は、民間がこういうまちづくりをやりたいと提案すれば、そのためにどういう制度や規制緩和が必要かというふうに取り組む。
80年代終わり頃から、BID制度が活発に活用されている。BID組織は、還元された資金を使って、歩道環境の整備、警備強化、歩行者天国の運営等の地区改善事業に取り組んでいる。最近の大型BID地区、タイムズスクエアやグランドセントラルをみると、BID財源のうち、地権者が支払う上乗せ付加税の交付の割合は5割を切る程度。他は、様々な事業収入、公的空間の維持管理による収益、売店のテナント料、ゴミ箱等の広告出稿料、あるいは債券発行による。チェルシー界隈で最近注目されているのは、昔の鉄道敷を公園や遊歩道として復活させようという「ハイライン・プロジェクト」。市が資金を出して遊歩道整備を行うことにより周りのビルの資産価値が上がり、固定資産税が増収となり、さらに市が投資をするという動きとなった。このように固定資産税の増加を見込んで行政が開発投資する手法はTIF制度と呼ばれる。
行政は街を運営する団体としてBIDを含むNPOをうまく立ち上げさせ、テナント料等の収入を得る仕組みを作り、タウンマネジメント能力を高めさせることにより、NPO自らが様々な事業展開を行うようにする。行政も地域のNPOと協力し街全体がよくなるように優先順位をつけながらTIFの考え方で基盤整備や環境整備を行う。こういう動きが街全体に広がっていることがニューヨークの力強い活性化を支えている。

 

 

 

「まちづくり活動における防災・環境・財源に関する取組みと課題」をテーマに、大阪の御堂筋と梅田地区、神戸の旧居留地、福岡の天神という4つの地域のエリアマネジメント組織から、それぞれの活動内容を報告していただいた上で、今後の課題について議論を深めていく。

 


コーディネーター
青山 公三
(前掲)
 
 
 パネリスト
 髙梨 雄二郎
(御堂筋まちづくりネットワーク 事務局長)

ビジネスチャンスと知的刺激のあるまちへ

今年で完成から75年となる御堂筋。金融再編以降の地域ポテンシャルの経年的低下を背景に「活力のあるビジネス街の維持発展」を目的として、沿道企業によるTMO推進検討会を経て2001年12月に設立。会員数29団体。ビジョン・まちづくりの戦略の立案やイベントの企画等のソフト面を行う「プロモーション部会」、まちづくりにおける各種規制のありかた検討・提言等のハード面を行う「都市環境部会」の2つの部会で活動中。ビジネス交流や知的刺激のあふれるまちを目指し、交流会やセミナーの実施、近隣教育機関の学生やOBも参加するイベント「御堂筋ギャラリー」等、賑わい作りのための多彩な活動を展開している。設立当初は市と関経連から事業協力金を得ていたが、現在は会費のみで運営しており、自主財源拡大に関する議論はこれから。街路灯バナー広告の活用など、公開空地や公共空間の利用についても行政と協議していきたい。防災、安全・安心対策についても、まずはセミナーで専門家のお話を伺うこと等から始め、今後取り組んでいく予定。
 パネリスト
 松岡 辰弥
(旧居留地連絡協議会常任副委員長 兼 都心づくり委員会委員長)

震災体験したからこそ大切にしたい親睦や繋がり
JR三宮駅と元町駅の南側、居留地地区をマネジメントし今年で30周年を迎える旧居留地連絡協議会。エリア縦横500m、就労人口2万5千人という比較的小さなエリアだが、当地域が第一に掲げるのは日頃からの親睦の大切さ。あらゆる親睦イベント、コンサート、忘年会などを実施し、ホームページや冊子での告知にも力を入れ、年4回のクリーン作戦には200名もの参加者が集まる。当地域は1983年に行政により景観形成地域に指定されているが、1995年の震災体験後、官民連携による復興計画を作成し、行政まかせにしないマネジメントを推進。ガイドラインにはコンセプトを明確にまとめ、中でも特に防災防犯対策は強化。隣組を組織し、有事の際の連絡、食糧の提供、情報提供方法、来訪者対応などを具体的に取り決め、定期的に訓練を実施している。今後はエリアで1000名の市民救命士取得を目指す。緊急時のスムーズな情報伝達は、日常の連絡がカギとなり、隣組を活用していることにより、日々横繋がりを作ることにより実現される。震災を体験した人が多く意識は高いが、このような状態を維持していくことが大切。

 パネリスト
 鴫山 一機
(We Love天神協議会 事務局長)

世界を繋ぐ天神地区 人が行き交うまちとして
天神地区は福岡空港・博多駅・博多港を繋ぐ交通機関が結節するエリアで、交通拠点性の高い立地条件。現在では、オフィスビルも連なる天神だが、歴史的にみると交通アクセスと商業施設が相乗的に増え発展してきたまちであり、We Love天神協議会では今後、商業活性化を重点課題としていきたい。人が行き交う場所では交通渋滞や違法駐輪などの問題が発生しやすく、歩行者天国やフリンジパーキングなどで官民連携し、それがきっかけとなって協議会は発足。現在も駐輪対策はもちろんの事、まちの快適・安心・安全を目指し、清掃美化、パトロール、合同防災訓練などを実施している。ガイドラインには3つの将来の目標像を定め、それを達成するための10の戦略と、その戦略に基づくアクションプランを設定。このアクションプランに基づいて日常の活動に取り組んでいる。地権者、地域企業、行政など106の会員により構成される当会は、会費、福岡市の負担金、イベント協賛などを自治活動費にあてる。今後は更なる自主財源の獲得を見据え、オープンカフェや街路灯のバナー広告事業、地域貢献資金を支援する自動販売機の導入などを始めた。また歩行者天国に着眼し、社会実験で実績作りをしているほか、イルミネーションの催事に合わせ警固公園にスケートリンクを設置する試みをしたところ2万人の動員実績が得られた。明治通りでは近い将来のオフィス群の建替えに向け、ハード整備計画を立案する会議体が別にある。我々としてはこの会議体としっかり連携して、歩行者道計画など、ハードソフト共に調整しながら進めていきたい。

 パネリスト
 廣野 研一
(梅田地区エリアマネジメント実践連絡会)

大阪駅前をシンボルとしてまちの目標像を明確に
大阪駅周辺地区4社で構成される梅田地区エリアマネジメント実践連絡会は、エリアの競争力・集客力・地域力向上を目標に掲げ運営をしている。活動のコンセプトで目標を明確化し、そのための活動戦略を設定。さらに、沿道空間でのイベント、オープンカフェの設置、賑わいの演出などの具体的な活動案を細かく規定した。エリアの声を代表し発言する立場として、PPPにも積極的に取り組む。イベント運営も積極的に行い、冬イベントでは、参加型コンテストやワークショップ、周辺デザイン学校の学生作品を展示するなど地域連携も織り込み、夏の梅田ゆかた祭りでは、日本の誇る文化あるいは環境共生をとらえ、地域の連携・盛り上がりに貢献している。イベント開催時200箇所へのバナーを設置するなど、自主財源確保に関わる試みも実践。財源としてはオフィス・ホテル・分譲住宅・ナレッジキャピタル・1万m²を誇る駅前広場を有するグランフロント大阪エリアにて、オープンカフェ運営やバナー広告を積極的に採用すると共に、景観検討部会を組織し大阪の顔にふさわしい駅前の景観作りを協議している。なお、官民の協議会の中でBIDについても検討している。防災については、最近実施した帰宅困難者訓練等を踏まえ、いろいろと取り組んでいきたいが、被災時には公共放送等の情報発信が重要と考えている。

 総括 青山 公三氏 (前掲)

各地域からのプレゼンにより、開会挨拶にて小林先生からお話のあった、積極的な公共空間の活用や公共性をベースとした新たな資金確保策等の6つの提案に対して、いくつかの点では明らかになったのではないか。財源確保の手段としてBIDがあるが、誰に対してどんな受益があるのかといったことを明確にしないと、制度を作ったとしても動き出さないし、BID以外の収入の多様化を図ることも必要である。活動内容については、環境作りやイベントに関するおもしろい議論が展開されていることが分かったが、同時に、防災・安心・安全といったテーマについてもエリアマネジメント組織が取り組んでいかないといけないと感じた。